みねちんにっき(仮)

はてダにあった日記を移動しました(仮)

Sさんのこと(あるいは舵を切るということの続き)

私にはたった数回あっただけの恩人がいます。
その方はSさんといいます。

2009年12月、私は、心底ドツボにいました。
それまでやっていた仕事に限界を感じ、もう自分がその業界でまったく通用しないことを痛切に思い知らされていました。
職場では仕事のできないやつとあきらめられ、
自分でもそれがよくわかっていて、
自分はゴミだという思いが常に頭の上に漂っている状態で毎日を暮らしていました。
数少ない、期待をかけてくれている人には、自分をあきらめたやつと思われ怒られて、
その暖かい気持ちがわかるだけに引き裂かれるような思いでした。

そんな状態で半年を過ごし、そろそろ限界がきていました。
毎日消えてしまいたくてしかたがなかった。
だのに、死ぬこともできない、自分を処することもできない、クズでした。
そう思っていました。

それでも、単に自分を責めるだけでなくて、必死に考えてもいたのです。
なぜ自分をクズだと、ゴミだと思うのか。
それは仕事ができないという一点ではないか。

私にとって仕事があるということは「ここ(社会・世間)にいてもいいんだよ」という手形みたいなものだったので、
仕事をするというのはとても大事なことでした。でもそれができない。
だったら、仕事を変えればいいんじゃないかと、凍りついた頭の隅にふとひらめいたのです。
でも、何をしたらいいのかぜんぜんわからなかった。何もできる気がしなかった。

そして定時に上がれたある日、だめもとでハローワークに駆け込みました。
そこにSさんがいたのです。

そのとき自分がどんな風に話し始めたのか、いまとなっては思い出せません。
ハローワークは本来、人生相談の場所ではないと思うのですが、
Sさんは、明るい元気な笑顔で、私の話を全部聞いてくれました。
自分がもう今までの仕事を続けられないこと。
それでも生きていこうと思ったら仕事をしなくてはならないと感じていること。
でも、どんな仕事をしたらいいのかまったくわからないこと。
今の自分に何があるのかもわからないし、できるとも思えないこと。
でも誰かに相談すれば何かあるんじゃないかと思ってハローワークにきたこと。

Sさんは、質問を交えながら私の話を全部聞いてくれました。
それから、仕事を紹介するというその窓口の、広い意味での業務を開始しました。
つまり、私にどんな仕事ができそうか、
私はどんな仕事をしたいと思っているのか、
あるいは、どんな仕事をするよう目指したらいいか。
自分で考えるのが難しければ、むいている職業についての分析をしてもらえること、
職業訓練校などの紹介もできること、
いってみればハローワークの業務の紹介もしてくれました。

その話の途中でSさんがふと、こんなようなことをおっしゃいました。
「あなたが誰かのために人を使ってコーディネートとかマネジメントとかしているような、そんなことをしてるイメージがわいたのよねぇ、
 あなたはそういうの似合うとおもうのよねぇ」

そのSさんのイメージは何の考えもなく困っていた私にすっと入り込んできました。
今まで閉められていたブラインドがパッと開けられて、壁だとおもっていたところから広い風景が見えたような感じでした。
ああ、そういうのもありかもしれない。
やればできるかもしれない。10年位したら、そういう風になっていたい。
そんなふうに、ひとのあいだで、笑ったり泣いたり落ち込んだりしながら、手ごたえを感じながら仕事をしていたい。
そう思いました。
そんな自分になろう、と、私は、恥ずかしながら生まれて初めて”キャリア”ということを本気で考え始めたのです。

それからまたSさんといろいろと話をして、
別の窓口を別の日に訪れる予約をし、
また別の窓口を紹介してもらい、そこでどんな話を聞けばよいのか教えてもらい、
そんな風にして、その日の面談を終えました。

今日、私はひさしぶりにSさんにお会いしました。
もうだいぶ通いなれたハローワークの、たくさんの窓口のひとつで、Sさんは、私のときと同じように、元気で華やかな笑顔で誰かの相談にのっておられました。
ひとつの面談が終了したタイミングを見計らい、私はSさんに声をかけて、就職が決まったことと、年末のその日のお礼を伝えました。
Sさんはとても喜んで、握手をしてくださいました。
そして、「よかった、からだに気をつけてがんばってね」といってくださいました。

お礼を伝えた後私に残ったのは、ぜんぜん伝え切れてないという思いでした。
Sさんにとってはただお仕事をしただけだろうと思うのですが
私にとってこれは人生でそう何度もあることではない大きな転換点で
そこにSさんがいて、その笑顔で力をくれたことは本当に、どんなに感謝してもしたりないことでした。

私はまだ、就職がきまっただけで、
こうなろうと思った、そのぼんやりとした到達点のスタートにたったにすぎません。
まだこんな文章を書くのははやいのかな、とも思いますが、
これからの自分に喝を入れるためにも、
Sさんの笑顔を忘れないためにも、記しておこうと思います。

そしてまた、これを読んでいる誰かのために、
仕事がなかったり、自分がどういう仕事をしたらいいのかわからなくて苦しんでいるひとのために、
だめもとでハローワークで相談してみませんかと記しておきます。
私は偶然にも、職務に大変熱心なSさんと会うことができましたが、
必ずしも窓口にそんな方がいらっしゃるかはわかりません。
また、ひととひととはなにぶんにも相性があるので、熱心でもあなたにはむかない職員さんになってしまうかもしれない。
でももっと別の職員さんと出会えるかもしれない。

一人で考えていても、たいしていい考えは浮かびません……
と、私は思います。
だめもとで、誰かに相談しに行ってみませんか?
最初から「どうせ誰にも助けてもらえない」と門戸を閉じずに、
だめもとで足を運んでもらえるといいなと思います。