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2019/11/4 「トークセッション 『ヴィンランド・サガ』から見たアイスランド」第2部

前半部はこちら

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注意!! アニメより先の内容がちょっと出てきますので、原作未読の人はネタバレ覚悟してください!

 

第2部の開始時間に慌てて席に戻ると、「幸村誠先生が遅れてらっしゃるのでしばらくお待ちください」とのアナウンス。会場の雰囲気がほぐれます。私はよく聞き取れなかったのですが(近年耳が悪くてほんと困る……)どうも準備に時間がかかった模様。

そして登場される幸村先生。ご存じの”正装”こと、自前のヴァイキング衣装です。満場の拍手の中、壇に上がられます。

司会は引き続きアイスランド大使館の保坂さん、そして幸村誠先生、第1部でご活躍の小澤実先生、松本涼先生、伊藤盡先生でのトークセッションン開始です。

トークセッションは司会の保坂さんからの質問に対し、先生方が答えるという感じでしたので、覚えている限りその答えについて書いていきます。

 

ヴィンランド・サガ」を描き始めたきっかけ

幸村誠先生「今まで何度も聞かれて、そのたびに言ってることが違うんですが(笑)」

「小学生の頃に読んでいた『北斗の拳』。入り込みすぎてて、自分の指がうっかり秘孔をついちゃうんじゃないかと……あんなに数があったら可能性があるんじゃないかと思って心配していたくらい入り込みすぎていましたが」

北斗の拳に出てくる種籾じいさん。ケンシロウは種籾を託されたのにちゃんと育てなくてオイと思った。恰好はいいけれど……」

「あそこで農業漫画を始めるのが正しい北斗の拳だ、と思ったのがヴィンランド・サガのはじめです」

(その発言後司会に感想を聞かれて)小澤実先生「……作者は神ですから……」

幸村誠先生と小沢実先生の出会いは?

(不明)「2014年のTBSラジオ番組でご一緒したのがきっかけです。スコットランドの財宝についての番組で……」

小澤実先生「前日に出てくれって頼まれました」

幸村誠先生「そうなの?自分は電話での出演だったけど、(小沢実先生も)そうなのかと」

(たぶん小沢実先生)「そのあと、編集した本に原稿をいただいたり、講演にきてもらったり、アイスランドの学会に一緒に来てもらったり」「持ちつ持たれつの関係です」

アイスランドの学会の内容は?

(不明)「レイキャヴィークは夏に文化的な催し物がとても多いんです。国を挙げての文化祭みたいな。(当日立教大学の学園祭だったのでそれを指して)」「その一環として、”アジアでアイスランドを舞台に漫画を描いている人がいる”ということで、漫画について話してくださいという依頼でした」

(確かアイスランドでも漫画は人気という話がここに入っていた気がします)

幸村誠先生「あのときは大変でした、5時間前に原稿があがって一睡もせずに空港に行って……コピーを講演会にもっていって」「あっ!講談社の方がいる!契約!……まあ時効だと思いますけど」(たぶん幸村誠先生は初公開に関する契約を講談社としている?)「原稿が大写しになって、寝ずに書いているんですという話をしました。(レイキャヴィークは)楽しかったです。読書家が多いんですね」(アイスランドは冬が長いから読書家が多いという司会からの口添え)「街を歩いていても『日本の漫画家でしょ?』と声をかけられました」

小沢実先生「(レイキャヴィークの大学の?)教授がヴィンランド・サガに傾倒しているんですよ。漫画やアニメの中でアイスランドを描いたものを気にしているんです。なので、『ユキムラをアイスランドに呼びたい』と言われて。2年くらいかけてアイスランドに幸村先生をお連れしました。こちらも付き合いでこのくらいの時期なら原稿があがっているから大丈夫とか計算して。(たぶんレイキャヴィーク大学?)日本語学科があって日本への関心が高いんです。だから講演会のあと急遽サイン会になってしまって。(ヴィンランド・サガは)アイスランドを描いた漫画ということがあって特別な位置を占めているんです」

 (たしか司会から)「アイスランド大学の第二言語の人気第2位が日本語なんですよ」「アイスランドの人は読書家というだけでなく、約10人に1人が執筆活動をしているそうです。国民は全部で35万人なんですが」

アイスランドに行ってどうでしたか?

 

 幸村誠先生「冬に行ったら暖かかった!夏は寒かった!夏の平均気温が15度くらいで冬が7度くらいで、年中気温差があまりないんです」「でも、逆に日本がどうかしてるんですよね!夏が40度冬が氷点下……」「あと、お魚がとてもおいしいです!」

司会「アイスランドは国の周りに暖流が通っているので寒暖差が緩やかなんですよ」

松本涼先生(第1部で話せなかった、アニメに描かれるアイスランドについて)

 

(アニメの風景を描いた絵を何枚か見せながら)「アイスランドは木が少ないので森がないんです。そして山と山の間は氷河だったといわれているんですが、アニメの背景にもそれがよく表れていますね」「最初のほうの絵ですが……家は芝土を固めて作っています。また、燃料も、泥炭か芝土を乾燥させて燃やしているんですが、アニメを細かく見るとちゃんとそのように描かれています。」「穀物があんまり育たないんで、牧畜中心で、そのほかに鯨とりなどもしています。タラも、干し魚にしてよく食べますね。原作にはなかったけれど、アニメの中ではビョルンが船の中で干しタラを食べています。アイスランドでは干しタラにバターを載せて食べるんです。」「食パンにバターを塗るようにタラにバターを塗って食べるんです」

アニメについて

 

松本涼先生「アニメ第1話、ヒョルンガバーグの戦いのところで雹が降る描写があり、アニメスタッフのすばらしさに感動しました」

小澤実先生「(ヒョルンガバーグ戦では)船の底が見えたのに感動しました。(ヴァイキング船について絵などがあるけれど)船の底がどうなっているかというのをアニメのほうでちゃんと想定して描いていて、すごいと思いました」

ヒョルンガバーグの戦いでのトールズの描写は、米ドラマ「ヴァイキング」を参考にしたのか?

 

(ツインエンジン藤山さん、呼ばれて客席後方から急いで出てくる)「いろんな作品を参考にしています」

幸村誠先生「(アニメの描写では)トールズは鎖帷子を着たままでしたね」

伊藤盡先生「ベオウルフの、甲冑を担いで泳いだ描写を思い出しました」(30人分?の甲冑をもって泳いだという話があるそうです)

幸村誠先生「できますね!」

ヴィンランド・サガとヴァルハラ信仰

 

(確か司会)「ヴィンランド・サガに出てくるヴァルハラ信仰のように、実際にヴァイキングにとって重視されていたんでしょうか?」

(不明。伊藤先生?)「それはとても難しい。一つだけ言えるのは、ヴァルハラやオーディンなどは、エッダにしたというのが大きい。永遠に戦い続ける男たちがいるという断片的な記述などがある。本当に8~10世紀の人たちがどのくらい信じていたのかはわからない」

司会「ヴァルハラと、トルフィンの目指すところが逆なのが面白いですね」

幸村誠先生「ヴァイキングのことを書く上でだいぶ出てくるけれど、文献を残した人たちはしばらくあとの時代のひとたち。当事者じゃない。つまりうそを書いてもいいってことだな!!と」(会場笑)「……何の話だっけ。ああ、ヴァルハラについてですね!ある程度の独自解釈が入ります。物語にはどういうヴァルハラが必要か。面白いかどうかが大事です」

ここで幸村誠先生、おもむろに……「頭が重い!」とおっしゃり、”正装”の兜をはずしました。司会の保坂さんに「その兜はどこで入手されたんですか?」と聞かれ「秋葉原ですね!」と即答される先生。しかし、「いや、北欧です」といいなおしてさらに会場の笑いを誘います。(慣れてる……!先生のツイッターのファンでもある私、ツイッターのままの先生にかんどーしておりました……)

「何の話だっけ?……ヴァルハラの話ですね。物語のために”必要なヴァルハラ”を利デザインさせてもらいました。(ヴィンランド・サガの)戦士たちはみなそこへ行きたい。それはどういうところかというと、永遠に戦闘訓練をしている。日が暮れたら肉と酒」(このあたりの話を聞きながら伊藤先生が何度も何度も深くうなずいていらっしゃったのが見えました。)

「……ちょっと僕は(そんなヴァルハラ=天国は)いいです」

「(主人公たる)トルフィンはそこを抜け出したい。ヴァルハラは最悪の場所として描きました。ヴァルハラの対比がヴィンランドです」(ここメモ欠け)「戦争を描いています」

伊藤盡先生「ヴァルハラとヴァルキュリアはセットですね。2期のエンディングの最後に出てくる……ヴァルキュリアはもともとは死神です。女性形です。死神なのでおぞましい存在として描かれたときもありました。ヴァルハラも恐ろしく描いたけれど、ヴァルキュリアもまた恐ろしい存在です。」

(不明)「今はバルキリーとしてゲームやたくさんの物語に出てきますけれどね」

クヌートについて

 

司会「クヌートについてですが、なぜあんな美少年になったんですか?」

幸村誠先生「人気出るかな?と思って。人気がほしかったんです」(会場笑)「冗談はともかくとして人気がほしかったんですよ」(そこまで繰り返すか……)

「(アイスランドなどの)サガに出てくる外見描写は、だいたい、屈強なとか美男子とか美女とかばかりで、あてにならないと思っています」

「クヌート(の美少年化)は物語がそうしろといったからだ!」

「スヴェン王にはハラルドとクヌートという二人の王子がいて、どっちかに王位をついでほしいと思っていた。だが、物語としてはスヴェン王にクヌートを邪険にしてほしかったので、(当時の感覚と反するような)なよっとした外見がほしかった。また、その後の辣腕出世ぶりとのコントラストになったと思っています」

司会「なよっとしたクヌートが王様になり、戦いの権化のトルフィンが戦いから離れていく、その交差が面白いですよね」

松本涼先生「(その後)クヌートが髭を生やしますよね」

幸村誠先生「あの髭は担当さんに怒られました。

『お前はビジネスがわかってない!!!』

って」(会場一番の大爆笑)

伊藤盡先生「今日の会場には女性がたくさんいらしてますけど、どうして女性たちがおっさんばっかりの漫画にこんなにいらっしゃるのか……ちょっと前に『ホビット』っていう髭面の男たちが13人出てくる映画があったのにそっちはちょっと……だったんですが(ごにょごにょ)」

幸村誠先生「クヌート推しの人はいますか?」(と会場に手を上げさせる……そんなに大勢というわけではない……ように見えました。ぱらぱらと)

「でも髭ってかっこよくないですか?」

 奴隷商人について

第1部で伊藤先生が話しそこねた奴隷商人の話について、ここで再度取り上げられました。

伊藤盡先生「1週間ほど前にボン大学ヴィンランド・サガの奴隷描写の話をしてきました」「奴隷をどうやって拘束してきたのか、ですが、考古学的には、手錠です。縄目手錠が出土しているが、奴隷用か犯罪者用か研究してはっきりさせないと……(まだ不明ということらしい)」「奴隷は労働者なので、拘束していたら働けないんですよね」

幸村誠先生「(漫画ではどう描写していたのか?)そのことを考えていたんですよね。文献からは確認できなかったので想像しました。主人公がこの後奴隷になりますが、どうやって縛り付けるのかを……」(トルフィンはご存知のとおり相当の手練れです)

「わが国では不本意な労働をしている人もたくさんいます。奴隷ではないし、強制もされていないのに」「(だからこの状況を作れば縛り付けられる)」

「”ここにいておとなしくしていれば食べることができる””つらいけれど、よそに行くよりはましだと思わせるのが拘束させるよい方法」「後で出てきますが二人の奴隷に開墾と畑をさせる。モチベーションを与えるなどの手練手管で縛り付けます」

「人を雇い人に雇われるのは1000年前も今も変わらない」

伊藤盡先生「奴隷に『ありがとうございます』『がんばります!』といわせたシーンはすばらしいと思います」(原作奴隷農場編のエイナルのコマ)

幸村誠先生「ありがとうございます!」

質疑応答

質問者「アシェラッドという名前は重要な名前だそうですが、どこでその名前を見つけてきたのですか?」

幸村誠先生「子供向けの北欧の本です。民話などによく出てきます。何人かの王子の末っ子で、弱虫ではみ出し者です。北欧の人にはおなじみの名前で、いくつかの物語に出てくるんです」

質問者「スプーンがアニメに出てきましたが、スプーンはあったんですか?」

幸村誠先生「スプーンは出土品があるが、フォークは14世紀にならないと出てこないんです」(ナイフとスプーンはあったらしい)

質問者「きのこで狂うビョルン(バーサーカー描写)と、酒で狂う神父。奴隷っぽいなと思いました」

幸村誠先生「いつの時代もそんな人はいるな、と思って……ビョルンは薬物依存、神父はアルコール依存……大丈夫?NHKでそんなアニメ放送してて?」「神父はもうしらふじゃやってられないよってなってるんですが……ビョルンはジャンキーです」

「なぜ奴隷を使うのか?楽をするためです。3000年4000年、時代や国が変わっても、我々の意識としての楽をしたいという気持ちから発しています」「我々もね、電気代水道代所得税……」(この後なぜか消費税への叫びとか)

(先生方のどなたかから)「神父について補足します。神父というと高潔な人物を想像しますが、ヴァイキングのころは妻子もいるし戦闘に出て撲殺もする。その後、批判が出てきて、神父像が変わってきます」

質問者「ヴィンランド・サガは長い物語になっていますが、長い間執筆するモチベーションになっているのはなんでしょうか?」

幸村誠先生「もう(ヴィンランド・サガを描き始めて)15年になりました。描き始めたころ生まれていなかった長男がもう中学生になります。最初は10年ぐらいかかるかなと思ってそれでもくらくらしていましたが(15年経過したけれど)それでも終わらない」

「モチベーションは……とっくに失っています」

「よく聞かれるんですよね。新人さんとかに。でも、物語を思いついてから1ヶ月、1週間……すぐ『これ面白かったんだっけ?』ってなる」

「でも、15年前、『これは描かねばならない』と思った、そのことを信じて、そのときの自分を信じて描いています」

「そして、SNSとかで感想をもらって『(あのときの自分は)間違ってなかった』と思っています」

 

 

ここでお時間となりトークセッションは終了。「最新話を描きかけで出てきました」とおっしゃる幸村先生。「すぐに(仕事場に)戻ります」とのことで、拍手の中を去っていかれました。

トークセッションの後も、3人の先生たちは壇に残られ来場者の質問に答えておられました。

(了)

(たどたどしいメモと記憶頼りで書きましたので、誤りがありましたら @minechin までご指摘お願いいたします!)