2019/11/4 「トークセッション 『ヴィンランド・サガ』から見たアイスランド」第1部
(2019/11/05 23:20 修正、追記)
この週末、とても面白いイベントに参加しましたので、せっかくなのでメモをまとめました。
内容につきましてはこの辺をぜひご覧ください。
というわけで、以下、私のメモとつたない記憶からのご紹介です。
司会:アイスランド大使館 保坂さん
その1
ツインエンジン藤山プロデューサー アニメ画像・PVを用いた紹介。
「ロンドン橋の死闘」線画メイキングのPVとか見せていただきました。
第9話「ロンドン橋の死闘」戦闘シーン【線撮メイキング映像】が公開! - ヴィンランド・サガ - ツインエンジン ニュース
今のアニメこうやって作ってるんだなーと、大変勉強になりました。
その2
小澤実先生(立教大学文学部教授)「ヴァイキングの世界」
先生たちのレジュメ写メりたかった……
個人的に興味深かった点を中心に。
- ヴァイキングとは「8~11世紀ごろ(日本だと奈良平安)ごろにユーラシア西部各地にし進出した北欧出身者」のことをさす。つまりヴァイキングとは略奪を目的とした戦闘集団というより、むしろ交易者。本来は。なので、現在本誌連載中の部分とかが本来のそれになるのかも。
- 北欧はもともとそれほど貧富の差のある社会ではなかった。750年ごろからのイスラーム銀(ディルハム)流入により金から銀に通貨(といっても銀製品の重さを通貨とする)が変わっていく。そして北欧からは奴隷や毛皮・琥珀・タカ・セイウチやイッカクの角といった特産品の輸出され、北欧社会の中で経済格差が大きくなり特定集団の権力が伸長されていく。ヴァイキング船がほかの地域の船より優秀なので、海だけでなく河川や湖沼も自在に移動し、活動範囲が広がり、各地で略奪や交易や定住していく……ということだそうです。
- アイスランドにはノルウェー系ヴァイキングが数世代かけて定住する。これが漫画におけるトールズやトルフィンたちの先祖になる。
- 「ヴィンランド・サガ」というタイトルは、そもそも、「赤毛のエイリークルのサガ」「グリーンランド人のサガ」をまとめていう言葉。アイスランドからさらに西方への移住の物語群。赤毛のエイリークルがグリーンランドを発見し、その息子レイフ・エリクソン(英語表記)がヴィンランドを発見したといわれる。
- アイスランドは北欧からブリテン島の先にあり、その先にグリーンランドがある。さらに先が、北米にあったとされるヴィンランド。ヴァイキング経済の特産品の重要な供給地。アイスランドの地理学的な意味。
- 北欧には10世紀半ばまで国というようなものはなかったが、キリスト教を受容しながらデンマーク・ノルウェー・スウェーデンの3国が成立。デンマークはイングランド南部と大陸・ノルウェーは北大西洋、スウェーデンは東方と深くつながっていく……このへん先のヴァイキング船やイスラーム銀や経済格差の拡大なんかと絡みますねきっと……
- アニメではまだアレなクヌート王子ですが彼が王になり3つの王国の王位を継いだ後の支配領域は、母方の血縁や姻戚関係もふくめ大変広大で地図を見るとびっくりしますのでウィキペディアで「北海帝国」を見よう。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E6%B5%B7%E5%B8%9D%E5%9B%BD
- アイスランドの写真などたくさんみせていただく。ヴァイキングが集会を行っていた場所、首都レイキャヴィーク。間欠泉と滝。小澤先生に限らず先生みな、早口でここがこれでここがああで……と面白い話がいっぱいで、メモが取りきれない!!
その3
松本涼先生(福井県立大学学術教養センター講師)「アイスランドのサガ 資料の用い方」
- アイスランドはノルウェー系ヴァイキングの植民によって成立。
- サガは一般名詞で200編以上あり、古アイスランド語で書かれている。AD1000年ぐらいのことを描いているが、実際に書かれたのはそのしばらく後なので、必ずしも事実とはいえない場合があるのではないか。北欧の物語が文章化されるのはキリスト教化されてから。(→ 関連として第2部のヴァルハラ信仰の話)歴史的事実ではないがその核になっている……
- サガの中にはヴィンランド(穀物の実る草原の地)とヴィーンランド(葡萄の実る地)の2つの表記がある。両方とも理想の地のような意味合いだが、最近の研究ではヴィンランド表記のほうがもともとでは……という風になっている。
- レイフ・エリクソンのモデル、レイヴル・エイリークソン。赤毛のエイリークルの息子。アイスランドの超有名人。
- トルフィンのモデル。ソルフィンヌル・ソルザルソン。またの名をソルフィンヌル・カルルセヴニ。カルルセヴニは男らしいとかいう意味で、船乗りや交易者として知られる。前半生がわからず、サガの中でもなぜヴィンランドを目指したのかがはっきりしない。そういう人物を主人公に選んだこと、当時の人としてはありえないことを物語の中で行動理由としたことに、幸村先生がすごいと思う、と先生がおっしゃっていました。
- アニメ「ヴィンランド・サガ」の表現が本当にすばらしいが、中でも、アマゾンプライム版でしか見られない「ヒョルンガバークの戦い」(トールズが戦いに飽いて逃げる描写)について、雹が降っている。これは原作にはなく、サガに書いていることなので、そこまで調べているスタッフ偉い!!と先生がおっしゃっていました。
その4
伊藤盡先生(信州大学人文学部教授)「『ヴィンランド・サガ』にみる『北欧奴隷』表現の系譜」
- レジュメのキャプションが英語でびびりました。外国の大学にも行ってらっしゃるそうなので……
- ヴィンサガだけでなく、今までの日本のアニメやマンガ表現のなかでヴァイキングがどう描かれてきたかを教えていただいた。
- 「小さなバイキング ビッケ」(!!知ってる人いますかー!)の中で「捉えられたヴァイキングが「ヴァイキングは奴隷にはならん!」と繰り返し言っている。だがその後「奴隷になったらおいしい食事やきれいな服をやる、お給金や休みをやる」というくだりがある。奴隷はあくまで契約をしてなる、相互関係の労働力(!!!)。
- 「クリスタルドラゴン」(!!)の中で、ヴァイキングに捕らえられたアリアンロッドとヘンルーダ(彼女らはアイルランドのケルト人)。ヴァイキングの長のソーリルがヘンルーダを口説く数ページでは、普通にプロポーズして口説いている(レジュメではソーリル表記だが、確かマンガ中ではソリルと表記されている)。ソリルの母は、契約をして働く奴隷制度をわかっておらず拒否するアリアンロッドに交渉をもちかけ、結果的にアリアンロッドという稀有な人材を働かせることに成功している。
- 「ヴィンランド・サガ」ではアシェラッドの「~。人間はみんな何かの奴隷だ」という台詞やハーフダン(!最新話のハーフダンとの差よ!)がトールズに言い放つ「それでこいつの鎖を解いてやったつもりか」などの台詞に、幸村先生の考え方が表れており、この物語の大きなテーマになっている……
先生早口ですごく大事なこと言ってた!ビッケの作者はスウェーデンだけどノルウェーがどうとか……アシェラッドの名前をよくもってきたとかなんとか……質問すればよかった……
第2部はまた、以下次号となります!