(日暮れに)
誰かが寄せてくれる(ささやかな)好意を、私は常に踏み躙りながら生きている。
そうしたいと思っているわけではないけれど、
私がとるすべての道と行動は、どこかで誰かを傷つけている。
――少なくとも、その可能性が常にあることを、心に留めるようにしている。
そういうとき私はこう言うことにしている。
「ごめんね、だけど”あやまらない”。」
くらし 石垣りん
食わずには生きてゆけない。
メシを
野菜を
肉を
空気を
光を
水を
親を
きょうだいを
師を
金もこころも
食わずには生きてこれなかった
ふくれた腹をかかえ
口をぬぐえば
台所にちらばつている
にんじんのしっぽ
鳥の骨
父のはらわた
四十の日暮れ
私の目にはじめてあふれる獣の涙。
(「表札など」より)
あやまらなくても
獣の涙があふれる日暮れはある。
もうすぐ40のある日に。